セレナとセレンディピティ―――カラパレ4話「大胆に思い切って」感想・考察

アニメ

せろりんです。

2019年に放送されたアニメ「バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~」、おもしろいですよね。今年2023年は、カラパレ放送4周年の大変おめでたい記念すべき年です。

4といえばカラパレ4話「大胆に思い切って」ですね。4という数字は美しい!

そういうわけでこの記事では、カラパレ4周年を記念して4話の感想と考察を書きます。

あ ら す じ

内容をよく覚えている人は読み飛ばしてもいいです。

©CP△/バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~/4話より

「わからない・・・ところがわからない!この本の内容はすべて読みつくした!隅々まで洗浄し、設置方法も正しい。操作方法もなにひとつ間違ってはいない」

「なんか演説が始まりましたね」

舞台は海底の田舎町パーレル、この回の主人公はクールで機械に強いマーメイドの「セレナ」です。

セレナは村に眠っていた古い映写機を復活させるために様々な方法を試します。ところが、マニュアルや本を読み尽くしたり、村に住む機械オタクに相談したりと手を尽くしても故障の原因は掴めません。

映写機はデリケートな精密機械ですから、素人のセレナにできることといえば、恐る恐る装置を洗浄したり設置方法を見直したりするくらいのものです。ところが、その程度の軽いメンテナンスでは機械は直りません。

煮詰まったセレナが村のカフェに行くと、そこには村のちびっ子「カプリ」が裾の破れたワンピースを持って座っていました。

セレナは、機械に強くてもお裁縫はからっきしです。ちびっ子カプリといっしょに直してはみるものの、素人の二人はノコギリやカッターを持ち出してデタラメな修繕を行い、ワンピースを更にボロボロにしてしまいます。

©CP△/バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~/4話より

「セレナ、あのね。これじゃないかも」

「カプリ、その見解はおそらく正しい。なんでだ。芸術的ひらめきを大事にしろって書いてあるのに」

と、そこにやってきたのがお料理とお裁縫の得意なフィナです。見かねたフィナがワンピースの修繕を1人でやってくれる・・・かと思いきや、フィナは「いっしょにやろう」と言い、どう考えても足手まといなセレナとカプリを入れて3人で力を合わせて修繕しようとします。唯一まともにお裁縫ができるフィナが自分1人だけで作業しないことを不思議がるセレナとカプリに対して、フィナは料理やお裁縫が得意ではなかった頃の昔にセレナに授けられたアドバイスを回想します。

©CP△/バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~/4話より

「本を見て、話を聞いて、その後は何度も実際にやってみることだよフィナちゃん。それ以外に方法は無いと思う。いつでも付き合ってあげるから、頑張って。諦めちゃダメだ!」

過去にセレナから受け取ったアドバイスの通り「本を見て、話を聞いて、その後は何度も実際にやってみる」ことで自分は料理もお裁縫も得意になったのだとフィナは言います。そして、その地道な努力を継続できたのは、セレナが「いつでも付き合って」くれたからなのです。フィナは、これまでそうしてきたように今度もセレナに付き合ってもらったのでした。

こうして3人で直したワンピースは、セレナがノコギリで空けた穴をスパイスとして活かしたすばらしいデザインになったのです。

©CP△/バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~/4話より

「いいか?こういうのは大胆に思い切って!」

映画館に戻ったセレナは、精密機器だからと躊躇していた映写機の分解を決意します。大胆に映写機のほうを振り返ると、勢い余った尾っぽが映写機にぶつかり、その衝撃で映写機のパーツが外れてしまいました。

周りが「壊れた!」と騒ぐ中、セレナは冷静に「こんな簡単に外れるわけがない」と分析し、パーツを元の位置にはめ直します。すると映写機は見事に動き出し、正常に映画を上映したのでした。

故障の原因はパーツが微妙にずれていたからで、セレナがずっと探していた修理方法とは、叩くことだったのです!


本を見て、話を聞いて、その後は何度も実際にやってみることだよ

あらためて4話を見ると、映写機の修理、昔のフィナの料理、セレナのお裁縫という失敗してしまった行動には、①本を見て②話を聞いて③実際に何度もやってみる のうち、どれかが必ず欠けていることがわかります。

カラパレ4話「大胆に思い切って」は、成功を掴み取るためには、本を見て、話を聞いて、実際に何度もやってみることが不可欠だと主張しているのです。

さて、古い機械は叩けば直るという事実は大人の我々にとって実に馴染み深いものです。しかし、少女のセレナにとって精密機器を叩くことは「マニュアルだけでは発見できない未知の領域」としか言いようのないものでした。叩くという修理方法は、セレナの本来の目的とはまったく違う、尾っぽが映写機にぶつかってしまうミスによって発見されたものです。このときのセレナのように、幸運な偶然によって本来の目的とは違う発見をすることをセレンディピティと呼びます。

セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%94%E3%83%86%E3%82%A3

このセレンディピティなる言葉は意味に若干の広がりがあります。幸運な偶然そのものを指すこともあれば、それを発見する能力、つまり観察力や思考力のことをセレンディピティと呼ぶケースもあります。

セレンディピティはカラパレの中には一度も出てこない単語でありながら、カラパレの物語を語るうえで最も重要なキーワードの一つです。

白川英樹とセレンディピティ

セレンディピティはサイエンスの世界で用いられることの多い言葉です。科学実験は、狙った通りの結果が得られないことが多い一方で、失敗と思われる実験結果には意外な発見が潜んでいることもあります。身近な例では、研究中に生まれた出来損ないの接着剤からポストイットが誕生した話が有名です。この例に代表されるように、失敗が転じて新しい発見が生じた例は、サイエンスの世界では枚挙にいとまがありません。

白川英樹の著書。帯の写真が白川英樹本人。

ところでおれは化学が専門です。化学の世界で有名なセレンディピティといえば、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士の導電性ポリアセチレン合成の例が思い浮かびます。導電性ポリアセチレンは、一言で言えば電気を通すプラスチックのことです。この物質は、現在ではタッチパネルや電池等の様々な電子部品に応用されているハイテク材料です。

↑ポリアセチレンの構造。ドーピングによって導電性を発現する。点線で省略している部分は、同様の構造が数十個以上続いていることを表している。

ポリアセチレンはプラスチックの一種です。特異の化学構造1からユニークな性質がいろいろと期待されていた一方で、白川英樹が白川法とよばれる合成方法を発見するまで、詳しい研究は行われてきませんでした。というのも、それまでに合成されたポリアセチレンは黒色の粉末で、粉末であるがゆえに詳しい性質を分析装置で調べることができなかったのです。

ところがある日、白川英樹の助手が既存のレシピの通りにポリアセチレンを合成しようと試みると、本来ならば粉末状となるはずのポリアセチレンが、どうしたことかフィルム状の固体として生成したのです!

フィルムであれば分析機器を用いて詳しい性質や構造を調べることができます2。フィルムのポリアセチレンを入手した白川らは、このユニークな材料の研究をその後も続けました。結果、ポリアセチレンは、臭素やヨウ素を少量加えることで3高い導電性を示すようになることがわかりました。プラスチックは電気を通さないのが化学の常識なのに、白川英樹が開発した導電性ポリアセチレンは、プラスチックでありながら金属に匹敵する電気伝導度を持つのです。

電気を通すプラスチックを発明したとして、発明に関わった白川ら3名は2000年にノーベル化学賞を受賞します。ノーベル賞の授賞記念講演会で、白川ら3名は「セレンディップの3人の王子」として紹介を受けます。「セレンディップの3人の王子」はセレンディピティの語源となった童話のタイトルであり、この紹介は、偶然にも童話のタイトルと同じ人数であった受賞者3名がセレンディピティに導かれて偉大な発明を成したことを称えたものです。

さて、白川英樹の助手が突如としてフィルム状のポリアセチレンの合成に成功した理由は、助手が、ある実験ミスをしたことにあります。ポリアセチレンの合成に用いる触媒と呼ばれる物質を、白川の助手は既存のレシピの1000倍も入れていたのです!4

触媒とは化学反応のスピードを大幅に上げる物質のことで、通常はごく少量を混ぜるだけ効果があります。料理に例えるとスパイスって感じです。

白川英樹の研究室では、触媒原液を1000倍に希釈しておいた触媒入り溶液を容器からスポイトで採取して合成に使っていたそうです。ところが白川の助手は、近くに置いてあった希釈済みの液と同じ見た目の容器に入った、希釈前の原液を使ってしまったのです!これってめちゃくちゃカラパレっぽいと思いませんか。

カラパレとセレンディピティ

カラパレを見てみると、この手の、偶然の失敗から生まれるセレンディピティは作中のいたるところに登場します。

大海流の被害が原因で映画館が見つかったのも、尾っぽがぶつかったことが原因で映写機が治ったのも、キネオーブを映写機に置き忘れたことが原因で過去と映像がつながったのも、映写機のトラブルが原因でチェルが大勢の前で歌いたいと思っている自分の気持ちに気づくのも、客船の事故が原因でグラディスが人間の少女と出会ったのも、キャロがポコを蹴飛ばしたのが原因で映画館から光が漏れたのも、身近なものしか撮れていなかった祭りの映像を通してソナタが自分の気持ちを知るのも、カノンが植木鉢を倒したことが原因でシャボンのシングルキネオーブが見つかったのも、そのキネオーブが割れてしまったときの光を見てソナタが小さな光となって輝いている真珠の美しさに気づくのも、アザラシ郵便が気まぐれで手紙を配達していなかったことが原因でカノンの気持ちがわかるのも。

すべて白川英樹の例と同じで、偶然による失敗が原因になっています。カラパレはセレンディピティに導かれる話なのです。カラパレ以外のほとんどの物語は意思や信念によって物語が進む一方で、カラパレで描かれる話はいずれもセレンディピティに駆動されています。

ところで、白川英樹のすごいところは、合成されたフィルム状のポリアセチレンを見て、失敗だとは思わずに成功だと思った点にあります。もともとフィルムを作りたくて実験をしていたならともかく、当時の白川英樹の実験目的は、過去のレシピの再現、つまり今までに合成されたのとまったく同じ黒色粉末のポリアセチレンを得ることにあったわけです。化学実験は全く同じ原料を使って全く同じ合成作業を行えば必ず同じ結果になるはずですから、論文の通りに作ったはずのポリアセチレンが論文に載っている通りの見た目にならないのであれば、どこかで失敗したと考えるのが自然です。おれのような凡百の化学徒は、何故かはよくわからないけど失敗しちゃったんだな、どこかでミスったんだな、きっとビーカーの洗浄が適当だったから変な物質が混ざったか、液をかき混ぜる速度が先行例より遅すぎたからこうなってしまったんだ、この物質はきっとポリアセチレンでもなんでもなく、この実験は失敗に違いなくて、得られるデータなど無いに決まっている、と考えてしまいます。化学者は往々にしてクソ忙しいですし、ワケのわからない実験結果は絶えず出続けるものなので、その全てにいちいち関心を払うことなどできないのです・・・。

そう言い訳して、おれのような凡百の化学徒は廃液の入ったポリタンクにフィルムをそっと流して、一から実験をやり直してしまいます。すると今度は注意深く実験を行うため、さすがに触媒のボトルは間違えず、フィルム状のポリアセチレンは二度と合成されないのです。

助手が触媒の濃度を1000倍間違えてしまったのは偶然であるけど、その結果を失敗と捉えずに実験を続けて成果を掴み取ったのは白川英樹の優れた洞察力と粘り強さのおかげにほかならないのです。これってめちゃくちゃカラパレっぽいと思いませんか。白川英樹が失敗としか思えない偶然から新たな発見をすることができたのは、①本を見て②話を聞いて の2つによって日頃から洞察力を磨きつつ、③その後は実際に何度もやってみた からなのです。

セレナとセレンディピティ

©CP△/バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~/4話より

「壊れた!」

「いや、これはおかしい」

「何が?」

「こんな簡単に外れるわけがない」

映写機を尾っぽで叩いてしまうシーンを見てみましょう。このとき、セレナ以外の4人は、パーツが外れても「壊れた」としか思いませんでした。一方でセレナだけは「こんな簡単に外れるわけがない」と、パーツが微妙にズレていたことを見事に見抜きました。パーツが外れてしまったのは偶然だけど、その偶然から別の真理を発見することができたのは、セレナに映写機の知識があったから、つまり本を見て話を聞いていたからなのです。

©CP△/バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~/4話より

「料理に例えると、カプリの気まぐれワンピース、セレナのスパイス、フィナのリボン風味って感じかな?」

フィナは、セレナが偶然あけてしまったワンピースの穴すらもスパイスとして捉えることで、カプリが着たいと思うような素晴らしいデザインのワンピースを作り上げました。普通だったら、カッターやのこぎりで開けてしまった取り返しのつかないようなボロボロの穴は、失敗としか捉えることができません。おれだったら穴を隠す方向で修繕してしまうか、さもなければ諦めてワンピースを自転車のチェーン拭き用の布切れに変身させてしまうでしょう。フィナがボロボロの布を見て、これは失敗ではなくスパイスであると捉えることができたのは、フィナが大胆に思い切った発想を持っていたから、つまり本を見て話を聞いてその後は実際に何度もやってみたからにほかなりません。

パーレルは、くだけた真珠がクラゲにならずに落ちていた場所に、そこを偶然発見した商人が作った村です。そのせいか、村の毎日には偶然と不思議があふれています。そして、自然の中を生きる村の少女は、どうやら多くのことを自然から学んでいるようです。大海流がいきなりやってきていきなり去っていくこと、窓の外を泳ぐアカリクラゲがすぐどこかに飛んで行ってしまうこと、割れたキネオーブの破片が光を反射して綺麗に光ること。セレナの口から出た「本を見て、話を聞いて、その後は何度も実際にやってみることだよ」というセリフは、不思議なことが次から次へと起こるパーレルで過ごすうちに、セレナが自然のうちに編み出した心構えなのでしょう。

おれたちは往々にしてクソ忙しいので、身の回りの偶然とか、失敗とか、不思議といったものに真面目に向き合っている余裕はありません。だからこそセレナたちには、いつまで経っても、どこにいても、クラゲの中から真珠の光を探し出すように不思議を見つめていてほしいと、おれは思うのです。ワンダーランドに暮らしていてほしいと思うのです。

せろりんでした。

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