最近聴いたオーディオブック 2023年5月の部――進化神経生物学、三体0、まほいく、明日の世界で星は煌めく

おはせろ!

せろりんです。

新参Audibleヘビーユーザーのせろりんが最近聴いたオーディオブックを紹介するシリーズです。

若干のネタバレを交えながら感想を書きますが、知った瞬間に話がつまらなくなるような致命的なネタバレは避けます。

ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ(マーク・チャンギージー)

聴き放題対象外です。セールで750円で購入しました。ガチでおもしろいです。

「進化神経生物学者」を名乗る著者の本です。タイトルの通り、ヒトの目が驚異の進化を遂げていて、視覚革命が文明を生んだのだと主張する本です。そう紹介されると我々は、「人間は盲点の部分が実は見えていないが、脳が勝手に補正をすることで視界から穴を消している、これは実に驚くべきことで…みたいな、どこかで聴いたことあるし、冷静に考えると別にそこまで興味無いような事実について淡々と語るタイプの、勉強にはなるけどエキサイティングではない本なんだろ?」と思ってしまいます。

ところがこの本は冒頭からぶっ飛んでいます。人間の目には「テレパシー」「透視」「未来予知」「霊読」の4つの能力が備わっている、との著者の謎の発言から始まるのです。

なんじゃそりゃ、スピリチュアル系の本か?とおもいきや、内容は(やや牽強付会気味ではあるけど)非常に科学的です。説明を聴き終わったときには「たしかに人間の目はテレパシー・透視・未来予知・霊読をするために進化してきたっぽいな・・・」と納得してしまう構成になっています。

超能力的な表現がされている視覚が持つ4つの機能について短く解説するとこんな感じです。
●テレパシー・・・人間の色覚は肌の色を通して他人の感情を知るためにある。果実を見つけるためではない。
●透視・・・人間の目が前後でも左右でもなく前方に、しかも2つついているのは、鼻や目の近くの葉っぱを透かして向こうを見るためである。立体視をするためではない。
●未来予知・・・人間は0.1秒前の世界を見ているのに難なく日常生活をこなせる。理由は脳が視界の歪みをもとに未来を予知しているからで、錯視は未来予知能力のせいで起きている。
●霊読・・・・人間は識字によって過去の人々(=死者)の意見を聞くことができる。文字の無い環境で進化したはずの人間が文字を読むことができるのは、文字が自然界の模様をかたどっているからである。

霊読だけこじつけ感があるような気もしますが、とはいえどの章もメチャおもしろく、納得感もあります。個人的にハイパーメチャおもしろかったのは第一章のテレパシーの項目です。人間の色覚は皮膚の色を見るためにある、とする斬新な説を唱えています。

まず著者は、身の回りのものはいずれもピンクとか黄色とか緑といった色に容易に分類できるのに、肌の色だけは、「肌色」というズルい表現をナシにすればしっくり来る分類ができないことを指摘します。この理由は、平熱を人間が感じ取れないのと同じで、肌色こそが人間にとっての基準値である「無色」であるからだと書かれています。平熱を基準とすることで自分や他人の数℃程度の微弱な体温の違いに気づくことができるのと同じように、人間も肌の色を基準とすることで、顔が青かったら具合が悪そうだなとか、顔が赤かったらキレてるなといったように、極めて微弱な色の変化に気づくことができるんだそうです。たしかに、人間の腕の静脈はメッチャ青く見える一方で、スマホで写真を撮って青い部分だけを拡大してみると、不思議なことに青には見えず、肌色にしか見えません。人間の色覚はそれほど微妙な違いにも気づくことができるのです。人間の目は肌の微妙な色の変化を見るために最適化されていて、色覚は顔色の変化から他人の内心を見透かすためにある、というのが著者の主張です。

なるほど~めっちゃおもしろいですね。こういう説を「社会的シグナル仮説」と言うんだそうです。まあ、せろりんはこの分野が専門ではないので、正直に言って説がどのくらい正しいのかはよくわからないんですが、著者の話を聴く限りは非常に説得力のある話ではあります。上におれが書いた要約を読むだけだと、みなさんはいろいろなツッコミが脳裏をよぎるかもしれませんけど、それこそが著者の思う壺で、我々が思いつくような疑問の多くは本の中で見事に説明されています。

透視・未来予知・霊読もメチャ面白いので気になる人は読んでみるといいです。

残念なのは、本書が視覚を題材にしているだけあってAudibleと非常に相性が悪い点です。何十枚もの図表が登場した上で「図○○をみていただきたい」みたいな文が頻出するので、図表が見れない環境だと理解が難しいです。図表は付属資料としてAudibleアプリから確認することが可能ですが、我々がAudibleを聴いているときはたいてい運転中か家事中で手が離せないので、後でまとめて見るしかありません。おもしろい本ではあるもののAudibleとの相性が最悪です。

おれはAudibleのセールで750円で購入できましたけど、セールをやっていないときは3500円もするので非常に高価でもあります。Kindle版なら1000円くらいで買えるのでKindleで買うのがおすすめです。

朗読は岡井カツノリさんです。聞き取りやすくて良かったです。

三体0 球状閃電(劉慈欣)

メッチャおもしれ~。死ぬほど売れてる名作中国SF「三体」のパラレルワールドの前日譚です。せろりんは「三体」のファンの端くれなので(本編は紙で読みました)、この本もメチャ期待して聴いたところ、やっぱり面白くて良かったです。

この小説は、摩訶不思議な球状の雷をテーマとしたSF小説です。球状の雷自体は「球電」「ボールライトニング」という名前で知られており、ときに都市伝説として、ときに実在する気象現象として扱われている現象らしいです。ウィキペディアにも項目があります。作者の劉慈欣も球電を見たことがあるらしく、その体験を元に書いたのが「三体0 球状閃電」らしいです。

14歳の誕生日に、何故か壁をすり抜けてきた球状の雷に両親を焼き殺された主人公・陳(チェン)が、球状の雷の謎に迫りつつ、研究の過程で兵器転用を目論むなどする話です。

メッチャおもしれーマジで。主に面白いのは、球状の雷の正体です。球状の雷の正体は、ある程度科学のことがわかっている人ならちょっとした説明を聞いただけで脳に電流が走ったようにすべてを理解することができるほど良く知られているもので、それでいて思いもよらないものです。まさか正体がXXXだったとは!よくそんなこと考えるな~と思います。しかし正体が喝破されるシーン以上に、球状の雷の正体を元に次々と驚くべきアイデアが出てくるのもメチャクチャおもしろいです。球状の雷の正体がXXXなのであれば、●●●もあるはずで、●●●を使った▲▲▲もあるはずだよな…、と、ついつい考えてしまうおれの妄想が小説中でも尽く実現されます。しかもその実現された●●●や▲▲▲は全部おれの予想を上回ってくる展開で、ガチおもしろいです。

さて、活字の劉慈欣作品には数少ない欠点があります。中国人の人名にふりがながほぼ無いので読み方が分からず、脳内で音読できないので読みづらいのです。ところがAudibleなら、音で人名が入ってくるので気軽に楽しめます。もちろん外国人の人名なので流石にとっつきづらさはゼロじゃないものの、抵抗感はかなり薄いです。

それはそうとこの小説に「三体0」のタイトルを付けるのはやや悪質なんじゃないかと思います。原著は「球状闪电」、英語版は「BALL LIGHTNING」となっていて、三体シリーズであるかのようなタイトルがついているのは日本版だけです。で、中身はどうなのかというと、三体要素はほぼ無いです。三体に出てくる登場人物の一人(丁儀です)が出てくるのと、最後のほうで三体に出てくるSFガジェットの存在をほのめかすような展開が出てくる点を除けば、内容は三体と関係ありません。三体0と言うくらいなのだから関係は薄いとしても三体1の世界の過去の話なんだろうと思いきや、そうですら無く、三体0のエンディングは三体1と繋がっていません。おれは繋がっているものだと思って読んでいたので、正直かなりモヤモヤしました。この小説に「三体0」とつけるのは、「天気の子」を「すずめの戸締まり0」として売るくらいには無理のあることです。あとがきを聴く限り、タイトルに「三体0」を付けるかどうかは訳者の中でもかなり葛藤があったっぽいですが、いやいやどう考えてもダメでしょと思ってしまいます。

朗読は祐仙勇さんです。声がハードSFの雰囲気によく合っていて良かったです。

魔法少女育成計画(遠藤浅蜊)

2016年にアニメ化もされているライトノベルです。略して「まほいく」です。16人の魔法少女が殺し合うバトロワものですね~。せろりんはアニメを何回か見ているわけですが、こんど続編をやるらしいので原作をAudibleで再履修しました。

結構おもしろかったです。魔法少女が能力を使いながら戦う能力バトルモノの要素があってドキドキハラハラです。そう長くない1巻の中で16人が戦うのでガンガン人が死んでいくスピード感がありながらも、読み終わったときには魔法少女のほぼ全員が好きになってる不思議な魅力もあります(カラミティ・メアリと森の音楽家クラムベリーだけは好きになれないかもしれないです…)。

ところでせろりんはアニメから入りました。おれはこういう、かわいい女の子にグロい殺し合いさせとけばウケるだろwみたいなジャンルのアニメがメッチャ嫌いで、まほいくも最初は「こういうのメッチャ嫌いだな~」と思いながら見てました。ところが見ているうちに何故か超ハマってしまい、今に至るまでなんやかんや4周くらい見ていて、けっこう好きなアニメです。スピード感が好きなんですよね~。

ライトノベル原作アニメしては珍しいことに、原作よりアニメのほうが情報量が多いです。おそらくアニメはスピンオフの描写も入れて作っているので原作より描写がしっかりしています。たとえば一番最初に死んでしまう魔法少女の「ねむりん」が(ねむりんはガチですぐ死ぬのでこれはネタバレでもなんでもありません)、実は他人の夢の中で良くも悪くも大活躍しまくって後のストーリーにも大きな影響を及ぼしているシーンが、アニメにはあるのに原作にはありません。謎の現象です。

Audible版も楽しかったですけど、アニメ2期に向けて原作かアニメかのどちらかだけ履修するなら情報が多く映像も楽しいアニメのほうが断然いいです。

朗読は大森ゆきさんです。暗い内容に反して朗読が明るく淡々としていて、謎の魅力を醸し出しています。

明日の世界で星は煌めく(ツカサ)

いいですね~。ゾンビ百合です。

主人公は一生いじめられて育った友達ほぼゼロの由貴さん、ヒロインは、中学生の頃に1週間だけ主人公の友達をやっていたサバサバキャラで転校生キャラの帆乃夏さんです。

唯一の友人だった帆乃夏さんが出会って1週間で別の中学に転校してしまった後も、主人公・由貴さんは高校生になっても相変わらずにっちもさっちもいかない日々を過ごしていたわけですが、ある日突然街に謎のゾンビが大量発生し由貴さんの日常は一変します。命からがら家に帰ると、家には謎の魔法の杖と、ゾンビ事件に絡んでいそうな父親の書き置きが残っていました。それからなんやかんやあってある日、街で由貴さんが魔法でゾンビをボコボコにしていると、そこには転校して引っ越していったはずの帆乃夏さんが居て…みたいなゾンビサバイバル百合です。

Audible版は全3巻中1巻しか出ていないので、ゾンビ要素についてはほとんど掘り下げがなく、そのへんは消化不良感が否めません。ただやっぱり、1巻で良かったのは百合要素ですね~。おれがグッときたのは、主人公の由貴さんがメチャかっこいい点です。

由貴さんは言ってしまえば陰キャなわけで、序盤のうちだと由貴さんは弱々しく見えるばかりです。大体の場合、こういう百合作品は、主人公が一方的にサバサバヒロインに救済される話になりがちです。由貴さん本人には自分がかっこいい自覚なんて一切ありませんし、読者もかっこいいとは思いません。ところがヒロインの帆乃夏さんが登場して、由貴さんのことを中学生の頃から”ヤバカッコいい”と思っていたと漏らすシーンから急に見え方が変わってきます。冷静に思い返すと、たしかに由貴さんはヤバかっこいいのです。帆乃夏さん的には、学校でいじめを受けてもガン無視を決め込んでいた姿がクールでカッコいいと感じたそうですけど、他にもあらゆる点で由貴さんはカッコいいです。周りがゾンビだらけでも一人でサバイバルをし続けているところとか、鬼強いゾンビに襲われてもクールに作戦を練って戦うところとか、冷静に見ると由貴さんはマジでクールで独立心が強くてカッコいいです。特にバトルシーンのクールさにはシビレます。シンプルに惚れそうになってしまいました。

せろりんはそういう、主観的にはめちゃくちゃ陰キャなのに、よく観察すると実はけっこうイカしてる、みたいな設定がなぜだかわからないですがメチャ好きです。

全然関係ない他の作品の話で申し訳無いですけど、せろりんが大好きな漫画「スローループ」の話をさせてほしいです。スローループの主人公は孤独を好む女子高生で、暇を見つけてはソロ釣りをするのが趣味の陰キャです。そこだけ聞くとかなり末期的な陰キャなわけですが、実はこの主人公は、打算のないストレートな物言いで感謝や好意をカッコよく伝えるため周りの女子に大変好かれている…という設定を持っています。この設定は、わりと最近の連載で、主人公の義理の姉のモノローグを通して明かされました。この設定を踏まえて読み返してみると、たしかに主人公の発言には打算が無く、そのストレートさで周りの女子をドキドキさせているシーンも多いです。しかしところが、主人公の義理の姉のモノローグを聞くまで、読者一同は主人公のことをただの釣りが好きな陰キャラだとしか思っていなかったわけです。その回で義理の姉に指摘されることで初めて生じた、物言いがストレートでカッコいいという視点には、読者一同大変驚きながらもメッチャ納得したものです。なんだか良いミステリーを読んだときのような鮮やかさがありました。

そういうわけでせろりんは、人物の、隠されていたわけではなく普通にオープンにされていたけど気にも留めていなかった一面が、実はその人のすごく良いところだったのでした、みたいな話がとても好きです。おれもみなさんも、きっとにっちもさっちもいかない陰キャに違いありませんけど、きっと知られざる素敵な一面があるのかもしれないですね~。

2巻もオーディオブック化されるのを楽しみに待っています。主な朗読者は柴田芽衣さんと青山吉能さんです。メッチャいい朗読でした。

終わりだよ~。

おすすめのオーディオブックがあったらコメントでおしえてください。

せろりんでした。

コメント