桜の花びらでマグカップを焼くぞ!

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皮肉だね 悪党の血の方がきれいな花がさく…

冨樫義博『幽★遊★白書』7巻 (集英社,1992)

アマチュア陶芸家のせろりんです。

みなさん。春、足りてますか?おれは足りていません。

それはそうと、突然ですが、薪の窯で焼き物を焼くと良い感じになります。燃えた薪から出る灰やガスが焼き物の表面と化学反応して、良い感じになってくれるためです。

では、桜の花びらを燃料に焼き物を焼いたら、果たしてどうなるのでしょうか?やってみました。

サヤ鉢焼成とはなにか

薪窯はおれたちアマチュア陶芸家にとって憧れの存在です。薪窯で焼いた焼き物は上手く仕上がれば大変シブくてカッコよくなります。一方で、薪窯などというものは、そうそう使える機会があるものでもありません。使わせてもらえたとしても非常な手間とお金がかかる上に、電気窯と比べて失敗もしがちです。おれのようなアマチュア駆け出し陶芸家が軽率に手を出せるものではありません。

しかし、どこのご家庭にでもある一般的な電気窯で、薪窯の環境をいくらか再現する方法があります。それが「サヤ鉢」を使った方法です。

これがサヤ鉢と呼ばれる容器です。市販もされていますが買うと高いので、おれはロクロを回して粘土から自作しました。

使い方は簡単です。良い感じの灰を出すような植物と作品を一緒にサヤ鉢に入れて、フタをして電気窯でいつも通り1230℃くらいまで加熱する、たったこれだけです。一緒に焼く植物はなんでもアリですが、定番はモミ殻、バーベキュー用の炭、藁あたりです。植物の種類とか、入れる量とか、蓋の密閉度とかで焼き上がりは毎回違って、うまく行くと格好良い焼き物になります。

よく見ると写真からもわかるように、サヤ鉢の内部は燃料の影響でツルツルした質感に変化しています。灰のアルカリ分が土と反応して微かにガラス質になるためです。同時に色も赤っぽくなっていますね。土の中の鉄分が発色しているからでしょう。

サヤ鉢焼成を行う狙いはもう1つあって、窯内にガスを生み出すためです。通常の電気窯は雰囲気が酸素メインなので、作品は酸素と完全に反応(酸化)してしまいます。それはそれで鮮やかで均一な整った色合いになるわけですが、シブみには欠けます。一方サヤ鉢の中では、有機物が燃える際に出るガスや一酸化炭素が絶えず発生して焼き物の表面から酸素を奪っていくため、酸化の度合いにムラができます。このおかげで発色にムラが出て、しかも独特の色になってくれるわけです。

↑バーベキューの炭と、近所の阿武隈川で採れたススキとを使ってサヤ鉢焼成したビアマグ。炭の炭素で炭化されて黒ずんでいる。

それはそうと、おれはアマチュア駆け出し陶芸家です。1年前に買った電動ロクロと小型家庭用100V電気窯をアパートの一室に設置して、パッションのおもむくまま趣味で焼き物を作っています。家に作陶環境を作ったのが1年前なだけで陶芸教室歴は5年です。

花びらを拾いに行くぞ!

そういうわけで近所の公園にやってきました。おれの住む福島県にも春が届いています。かなり散りはじめていて、絶好の桜狩り日和です。

ところが、もっと盛大に花びらが落ちているのを想像して来たのに、いざ拾おうとすると物足りない量しか落ちていません。毎年こんなもんでしたっけ?これまで桜の花びらで焼き物を焼こうと思ったことが無いので、真剣に観察したことがありませんでした。

ここでチビチビと拾っても別にいいんですが、しかし落ちてる花びらが少なすぎてタイパが悪い気もします。もっと花びらを鷲掴みにできるような最強採集スポットがどこかにあるはずです。

この手の単純作業に出会ったとき、上の写真の場所のような効率は悪いが間違いなく堅実に採集は進む場所で黙々と花びらを集めるタイプの人間と、一発逆転を狙って別の場所を探すタイプの人間の二種類が、世の中には存在します。世間では前者のほうが早く仕事を終わらせている気もしますが、しかしおれはだんぜん一発逆転タイプです。もうちょっと公園を練り歩いて桜爆採れスポットを探してみます。

そういうわけで園内の謎のトンネルの側溝に桜がモリモリ採れそうな採取スポットが見つかりました。コレコレ!今回は一発逆転タイプの勝ちのようです。対戦ありがとうございました。

お宝です。側溝のような窪みが狙い目のようですね。流石に大のオトナが道端で何かを拾うのは恥ずかしいですが、気にしないことにします。

前日に雨が降ったようで、花びらにややフレッシュさが欠ける気もしますが、こんなもんは焼いてしまえば一緒です。

謎のおばあちゃん、参戦

去っていく謎のおばあちゃん

桜を拾っていると杖を持った謎の老婆が歩いてきて、おれの様子をじっと見ています。こういうのは堂々とやるのが重要なので、気にしないで花びらをビニール袋に詰め込んでいると、おばあちゃんはなぜか財布を開きはじめました。そしてなぜか百円玉だけがたくさん入っている謎の財布から百円玉を10枚も取り出して「ゴミ拾い?」「これでジュースでも買ってな」と言って渡して来ました。いやゴミ拾いじゃないし、ジュースの金額じゃないって!

大のオトナが知らないお婆ちゃんから理由もなくお金をもらうわけにもいかないので「いやいや大丈夫です!」「ゴミ拾いじゃないですよ!」「お金なら持ってますから!」と断ります。お婆ちゃんも折れずに「いいからいいから」「立派じゃない」「オバアのあげるもんはもらっとけ」と、けっこうな剣幕で言ってきます。

大のオトナが知らないお婆ちゃんから理由もなくお金をもらうわけにもいかないので「ゴミ拾いをしてたんじゃなくて、自分は陶芸をやっていて、焼き物の材料で桜の花びらを集めててですね…」「ジュース代には高すぎますって!」と抗弁します。しかしお婆ちゃんも折れず、話はなぜか平行線をたどり、最終的にお婆ちゃんのほうがだいぶヒートアップしてしまったので自分が折れて1000円をもらうことになりました。

最終的に「親からもらった体、大切にしな」と言って去っていきました。ありがとうお婆ちゃん、親からもらった体、大切にします。

おかげさまで、サヤ鉢を埋め尽くせるくらいのまとまった量の花びらが手に入りました。その後も園内でお婆ちゃんにバッタリ出くわして、ブラックサンダーをもらいそうになって流石に断ったり、追加で500円もらいそうになって流石に断ったりと色々ありました。

お婆ちゃんからもらったお金はネパールカレーになりました。

作陶するぞ!

満を持して焼き物を作っていきます。まず、ホムセンで買った何の変哲もない信楽の粘土を菊練りという特殊な方法で練ります。粘土に含まれる空気を取り除くため菊のような形に練るのが菊練りです。

うなぎ屋さんで言うところの「串打ち3年 裂き8年 焼き一生」みたいなノリで、陶芸界にも「菊練り3年ロクロ10年」という言葉があります。おれは陶芸歴5年なので菊練りはなんとかできます。でも最初はたしかに苦戦した記憶があります。

電動ロクロに粘土を据え付けて、粘土のブレを取って(土殺し)、円柱状に成形(芯出し)します。菊練り、土殺し、芯出しはどれも難しい上にそんなに楽しくないので、観光地の一日陶芸体験では先生が芯出しまで終えた状態まで持っていってからスタートすることが多いですね。おれはいやしくもアマチュア陶芸家なので自分でやらないといけません。

粘土をカップ状に成形する、糸で切り離して半日乾燥させる、ろくろに乗せて余分な粘土を削るなどの一般的な工程を経てカップにしていきます。

ノリで裏面に渦巻きの装飾を入れて、自分のサインを彫ります。サインには草かんむりにSという、特に意味のない架空の漢字を使っています。なぜ特に意味のない架空の漢字を使っているのかと聞かれることもありますが、それにすら特に意味はありません。

粘土をこねて取っ手を作って、泥で接着します。

完成!端正なコーヒーカップが成形できました。陶器は歪みの美しさを尊ぶ器ですけど、今回は桜で焼いた風合いを強調したいので頑張って均整の取れた形に作りました。この状態で2日ほど完全に乾燥させて、電気窯で素焼きします。

焼成するぞ!

我が家の電気窯がこちらです。ヤフオクで発見した中古品を1年くらい前に4万円で買いました。マグカップなら一度に8個ほど焼ける小さいサイズで、家庭用100V電源でも動くアマチュア向けの窯です。

素焼きを行いました。焼き物は基本的に二回焼きます。一回目は800℃くらいの低温で行う素焼きで、2回目は1230℃くらいで行う本焼きです。

そういうわけで写真は素焼きを終えたものです。植木鉢のような質感になっていますね。

さっきまで作っていたカップは左のほうです。こっそり予備で右のカップも作っておきましたけど、このあと一発でうまく行ったので結局使いませんでした。

自作のサヤ鉢にマグを入れます。

カップを作っているうちに花びらを採取してから1週間も経ってしまい、完全に枯れて茶色い粘土みたいになってしまいました。どうして・・・。花びらの寿命ってこんなに短いんですね。

とはいえ植物は焼けば完全に灰か炭になってしまうので、枯れていようが同じことです。灰になればマグネシウムやカリウムのようなミネラル分しか残らず、そしてミネラル分の組成は枯れていようが変化しません。そういうわけでサヤ鉢に素焼きしたカップを入れて、隙間に花びらの成れの果てを詰めていきます。

写真映えのためにもう一度あの公園に行ってフレッシュな花びらを拾ってきました。あれから1週間経ってしまったので流石にもうほとんど咲いてなくて、表面に散らすだけの微量しか取れませんでした。

あと、見栄えするかなと思ってタンポポも取ってきたんですが、たった半日だけ放置したらシナシナになってしまいました。どうして・・・。

サヤ鉢の隙間を軽く粘土で塞いで電気窯に入れます。これから本焼きをかけていきます。

ただし電気窯は湿気に弱いとされていて、桜の花びらは水分をたくさん含んでいます。いきなり1230℃まで上げると高温の水蒸気が窯の寿命を縮めてしまう気がするので、本焼きの前に400℃まで上げて花びらを乾燥してみます。400℃になったら電源を落として、100℃前後まで冷えたら窯の扉を開けて湿気を飛ばしておきます。

室内には花びらが焼ける香ばしく華やかな香りが立ち込めています。いい匂いと同時に一酸化炭素が死ぬほど生じている可能性もあるので、窓をあけておくことが重要です。

焼けたぞ!

そして1230℃で1時間加熱したものがこちらになります。蓋をあけてみましょう。

おお!なんかいい感じですね!あれだけたくさんあった花びらは全て灰か炭か二酸化炭素になって、体積がめちゃくちゃ減っています。カップを取り出してみましょう。

おお!美しい見た目になっていますね。表面に光沢が生じてメタリックになっています。さらにカーボン成分が器に移って黒くなっています。ちなみに今回使った土はサヤ鉢と同じ土で、桜を使わずに電気窯で焼くとサヤ鉢の外側と同じベージュっぽい白になります。

表面がほんのりピンクっぽくなっているのもアメージングですね。もちろん桜のピンクが移ったわけではありません。桜のピンク色を呈している有機物は1230℃だと焼き尽くされて完全に炭か二酸化炭素になっています。このピンクは、おそらく桜が燃えたときのガスと反応して粘土に含まれていた鉄分が発色しただけなんだと思います。ほかの植物でも焼成条件によっては同じような見た目になるでしょう。けど、「桜の花びらで焼いた」と言って説得力がある見た目に仕上がってくれたのは良かったです。

ピンクの焼き物って可愛らしい反面、安易に作ると軽薄で安っぽい印象になりがちです。けど今回は、炭化の黒と、なぜか発生している銀色っぽい輝きのおかげで深みも兼ね備えていて重厚感のある作品になっています。我ながらかなり上手く行ったと思います。

ちなみに炭化がキマって黒っぽくなっている今回のような焼き物は、石川県の珠洲市で伝統的に作られている「珠洲焼」と偶然にも同じようなスタイルです。こういう感じの焼き物が気になる人は能登に行ってみるといいんじゃないでしょうか。

陶芸の魅力は、流れゆく時間の一瞬を1つの固体として残すことができる点にあります。手で成形したときの粘土の歪みとか、焼成時のガスのムラとか、焼成中に融けて流れた釉薬(うわぐすり)が固まった瞬間の躍動感とか、そういう、作品が焼き固められるまでに経過した一瞬一瞬が感じられるのが陶器という芸術です。今回は、すぐに去ってしまいがちな春の暖かく華やかなイメージを器に表現することができたんじゃないでしょうか。

そういうわけでコーヒーをしばきます。足りていなかった春を補給できました。

せろりんでした。

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