スローループの1巻、いま読むとガチで全部詰まってると話題に

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せろりんです。

みなさん、世界一おもしろい漫画って何か知ってますか?実はこれ、スローループなんです。知ってましたか?

そういうわけでスローループの11巻が出るのを記念して1巻ごとに全巻の感想を書いて1つの記事にしようと思ったら、1巻の感想だけで言いたいことがありすぎたので単発で公開します。

フラクタルとはなにか

突然ですが、みなさんフラクタルってご存知ですか?全体のうちの一部を拡大しても、また全体と同じような構造が出てきて、それがいくらでも続いているような構造を指す言葉です。全体は一部をあらわしていて、一部は全体をあらわしている。スローループってこれなんですよね!

スローループってけっこう多彩なテーマを扱った多面的な作品で、最新話を読む度に新しい楽しさと驚きがあるわけです。でも、改めて読み返すと、その全ては1巻という一部に詰まっていることに気づきます。

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第1巻(株式会社芳文社,2019)p.95より引用

たとえば、スローループって最近になって突然、主人公・ひよりが多数のヒロインに謎にモテてしまうガールズラブコメみたいな作品に変貌していますよね。そういう展開を露骨にやり始めたのは8巻の頃だったと記憶しています。

ひよりが謎にモテてしまう理由はずばり、ひよりの言葉がいつでもまっすぐだからです。スローループのキャラクターはみんな悩みやコンプレックスや後悔を抱えていて、それをひよりのまっすぐな言葉が次々と救済していく…。これこそがひよりのモテのメカニズムです。

で、このページからはガールズラブコメの片鱗が見えますよね?うちのまいこはこの頃からガールズラブコメをやるつもりだったのかもしれません。

おれはいつも、けっこう真面目にスローループの先の展開を予想しながら読んでいます。それでもスローループがガールズラブコメ編に突入したときは、そう来たか~と思ってけっこう真剣に驚きました。11巻はガールズラブコメ展開が加速していましたよね。

8巻を読んで驚いたような展開が、実は1巻に隠れていたわけです。葉脈、血管、雲、雪の結晶、雷、ブロッコリー、ロマネスコ、そしてスローループ。自然界のあらゆるところにフラクタル構造は隠れています。

とても変わった女の子

スローループの1巻ってマジで美しいんですよね。なんといっても、1巻を通して行われる言葉遊びのような展開がガチで美しいです。

御存知の通り、スローループ1話のサブタイトルは「とても変わった女の子」で、「私の父は とても変わった人だった」というモノローグで幕をあけます。とても変わった父が亡くなったところに、とても変わった女の子であるところの小春がやってくるわけです。

同時にひよりは、変化を拒むキャラクターとして描かれます。変わらないでいてくれる海のことを愛していて、父親の部屋が変わっていくのが嫌で、父親が教えてくれたフライフィッシングだけを黙々と行っている。この状態のひよりが見れるのは1巻の前半だけなのでおれたちは忘れがちですけど、もともとのひよりは、そういう暗くてネガティブなキャラクターなのです。

しかしひよりは、とても「変わった」女の子であるところの小春との同居を通して、変わっていくことを受け入れられるようになっていきます。これ、ほんとうに美しくて奥行きのある言葉遊びなんですけど、単なる言葉遊びでは終わってなくて、物語の軸になっているのがすごいんですよね。

どういうことかと言うと、いったんこのコマを見てほしいです。

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第1巻(株式会社芳文社,2019)p.61より引用

「ひよりちゃんのパパの部屋」の話題から急にエサ釣りの話に飛ぶのは、脈絡がないように見えて、実際にはひよりが変化を受け入れられるようになる様子を描写しているわけですね。

つまり、ひよりが変化を受け入れることによってエサ釣りにも興味を持つところからスローループの物語は始まってるわけです。スローループはフライフィッシングの漫画だと思われがちですけど、実際にはフライフィッシング以外にも、エサ釣りとか、ルアーとか、テンカラとか、とにかくいろんな釣りがたくさん登場します。スローループは小春がフライフィッシングに入門する漫画でありながら、ひよりが変化を受け入れてフライフィッシング以外の釣りに入門する漫画でもあるのです。

11巻ではルアー釣り少女の小宮山心が登場したわけですけど、そういうのって全部このコマから繋がってるわけですね。

なぜひよりが切るゆで卵は大きめなのか

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第1巻(株式会社芳文社,2019)p.137より引用

おれって1巻のこのページがめちゃくちゃ好きなんですよね。小春と二人で釣りをする瞬間に、ふと「なんか最近 釣りが楽しい…」と気づくの、ガチでめちゃくちゃいいです。

でもそれ以上に好きなのが、おにぎりに梅干しが入っていることにひよりが驚くシーンです。

作中で解説されているように、梅干しは縁起が悪いので、ひよりは釣り中に梅干しを食べたことがありませんでした。しかし小春は縁起なぞ知らないわけです。ひよりは、梅干しのちょっとした刺激と共に、自分の釣りに起きたちょっとした「変化」に驚いて、でもそのことを嬉しく思うわけですね。スローループって、こういう、ちょっとした食べ物を絡めた心理描写がすごく上手いなと思います。この手の繊細でさりげない描写をやらせたらスローループの右に出る漫画はちょっとないだろうなと思います。

そういう感じの描写でおれが好きなのは、2巻のタルタルソースの話です。

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第2巻(株式会社芳文社,2019)p.24より引用

この前のページの「タルタルソースって作れるんだね」というセリフもアホっぽくて大好きなんですけど、やっぱり「大きめにしよっかな…」がメチャクチャいいです。だってタルタルソースのゆで卵を大きめにしよっかなと思えるのって、なんというか、すごく幸せなことですもんね。

不幸な人間は、決してタルタルソースのゆで卵を大きめにしようとは思いません。たとえば1巻の冒頭のネガティブなひよりは、タルタルソースのゆで卵を大きめにしようとは思わないわけです。せいぜい中くらいでしょう。こんな感じの、食べ物を使った微妙な描写がスローループはメッチャうまいと思います。食べ物の執着が、そのまま生きることのよろこびとして、あるいは生きている人の特権として描かれているのがマジで好きなんですよね。スローループって最高の釣り漫画であり、最高の家族漫画でもあり、そして最高のグルメ漫画でもあるんです。

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第11巻(株式会社芳文社,2026)p.122より引用

せっかくなので最新11巻から抜擢すると…ここメチャクチャいいですよね!小宮山との料理対決になって、小春が「明日のお弁当に入れとくね」みたいなことを言ったおかげでひよりが小春に清き一票を入れるシーンです。

「お弁当に入ってるんだなぁって思ったら嬉しかった」って理由がなんかめちゃくちゃアホっぽいけど、でも食欲に素直でいいな~と思います。二人はきっと普段からこんな感じでイチャついているんでしょう。二人の関係をたった2コマで完全に表現しています。一部は全体と同じで、全体は一部と同じなのです。

初期のスローループってそれなりに暗くて重くてぎこちない雰囲気がありましたけど、最近ってなんだか普通に全員ハッピーそうですよね。

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第6巻(株式会社芳文社,2022)p.169より引用

この手の、ちょっとした食べ物を絡めた心理描写で群を抜いて一番いいのは、やっぱり何と言っても6巻の魚醤を作る回ですよね。父親が死んで、海は変わらないでいてくれるのにな、なんて思いながら釣りをして、料理をしてくれる父親がいなくなってしまったから魚を冷凍庫に余らせていた頃、つまり1巻の頃に溜め込んだ冷凍の魚を使って魚醤を作る回です。

その頃の魚は消えたりしなかったけど、小春が全部腐らせて、魚醤に生まれ変わらせてくれたわけですね。やっぱり、こういう話をやらせたらスローループの右に出る漫画はあんまりないんじゃないかと思います。この話がすごいのって、ひよりが冷凍庫に魚を溜め込む描写がちゃんと1巻に印象的なシーンとして存在することですよね。

スローループはなぜ義父娘百合漫画なのか

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第11巻(株式会社芳文社,2026)p.122より引用

ところで、11巻を読んだ人は、小宮山心なる新キャラの登場にさぞ驚いたことでしょう。おれも驚きました。なにせ小宮山は、ひよりをパパにしようとしている異常者です。11巻になって突如として義父娘百合漫画と化したスローループですが、でもこの展開は、1巻にすでに予言されていたといっても過言ではありません。

思い返してみれば、スローループには実にいろいろな疑似姉妹的関係が登場します。そしてその関係は、冷静に見るとそこそこ倒錯しています。

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第1巻(株式会社芳文社,2019)p.105より引用

小春は2か月しか離れていないひよりに対して露骨に姉として振る舞っていますし、同級生のはずの吉永恋はひよりのことを妹みたいに扱っていますし、小春達も吉永恋のことを姉のように慕っていますし、二葉は「ひよりお姉さん」とひよりを慕いつつ姉のようにひよりの世話をしていますし、土屋みやびは「うちくれば?」と小春を家族として迎え入れようとします。

こういう倒錯した疑似家族的な関係は、血の繋がっていない海凪家が、それでも家族になれることの根拠として我々に提示されているんですよね、きっと。海凪家はまさに「変わった」家庭なわけですが、これだけ倒錯しててもいけるんだから、海凪家みたいな家族の形もありうるよね、というメッセージなんでしょう。

11巻で突如登場した謎の新キャラは、実はスローループが1巻からずっと描いていることの延長線上に存在しているに過ぎません。小宮山にはなんとしてもひよりをパパにしてほしいですね。ついでに小春をママにしてくれても一向に構いませんけど。

変わらない笑顔でいれば

©Maiko Uchino うちのまいこ『スローループ』第1巻(株式会社芳文社,2019)p.170より引用

これは釣りキャンプの最後に小春とひよりが星空を見上げるシーンですね。ここ、みんな大好きですよね。おれは2019年にスローループ1巻を読んで最強強火ファンになってしまったんですけど、やっぱりこのシーンで心を掴まれた気がします。

都会だと小さな星は見えないけど、見えないだけで確かにそこに存在しているという話ですね。そして、ひよりにとっては背が伸びるというよろこばしいことですら忌まわしい「変化」なんですよね。

これに対して小春は「ひよりちゃん 今日楽しかったね」「だから大丈夫 ひよりちゃんのパパも …私のママも きっとわかるよ 昔と変わらない笑顔でいれば」と言います。

このセリフ、まじでメチャクチャいいんですよね。スローループのすべてが集約されているセリフだと言ってもいいでしょう。なにもかも変化していくけど、笑顔でいれば死んだ人もわかってくれると小春は考えているわけです。スローループはフラクタルなのでこのセリフはスローループ全体のことを表していますし、また、スローループ全体はこのセリフを表しています。

たしかに変化するというのは、別れた人との思い出を上書きしてしまうようで、どことなく嫌さがあります。フライフィッシングしか教わらなかったひよりがフライ以外の釣りにも挑戦するというのは、まさに思い出を上書きしてしまうような行為です。しかし一方で、おれたちは変化無しに生きていくことはできません。だから小春は、笑顔でいることさえ変わらなければ、それ以外が変わったとしても問題ないと考えるのです

先の展開を知った上で読むと、このセリフって、小春が自分に言い聞かせているようにも思えますよね。小春がずっと笑っているのは、全てが変化していく中でも、笑顔でさえいればなにも変わらないんだと思っているからなんですよね。

スローループって5巻あたりで「小春ピエロ編」とおれが勝手に呼んでいる話が始まって、小春が実は周りの目をとても気にしていつも笑顔でいながら打算的に生きていたことが明かされるわけです。これまでの描写からなんとなくそういう女の子なんじゃないかなと思いつつも、基本的には天真爛漫であまり何も考えていない女の子として小春を捉えていたおれたちは「小春はさ…ピエロなんだよ」とか「結構 私は打算的だ」みたいなセリフで大変な衝撃を受けましたよね。けど、冷静に1巻から読んでみると、そういう展開になりそうな萌芽はあちこちに見てとれます。1巻ってまじで全部詰まってるんですよね。

そういうわけで、スローループは何度読んでもめちゃくちゃおもしろいので、11巻が出たこのタイミングで読み返してみてはいかがでしょうか。1巻はもう7年前の漫画で、おれは何十回も読んでるのに未だに味がします。最後までチョコたっぷりなのはよくあることかもしれませんが、最初からチョコたっぷりなのはなかなかないんじゃないでしょうか。

せろりんでした。

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