せろりんです。
みなさん、因縁はありますか?おれたちは因縁と対峙するためにこの世に生を受けました。
大日本帝国陸軍の天才軍人・石原莞爾は、自著「世界最終戦論」の中で、来る世界大戦では東洋文明最強の日本と西洋文明最強のアメリカが宿命的な対決を果たし、その際の科学技術の発展により登場するであろう極めて強力な戦略兵器がその後の国際秩序に恒久的な平和をもたらすだろうと予言的な主張を展開しました。それとまったく同じ理屈で、おれは北極ラーメン辛さ10倍と対決する必要があります。

そういうわけで新宿の中本にやってきました。
北極ラーメンはおれが辛いものを好きになったきっかけと言っても良いです。最初はセブンイレブンで北極のカップ麺を買って、うめーと思って店に食べにいったんですよね。おれは中本によって育てられたと言っても過言ではないのです。
ふつうの人からすると1倍ですら殺人的に辛い北極ラーメンですが、実はカスタムとして辛さ10倍までを選ぶことが可能です。

いつかは10倍を倒したいと思いつつも、1倍ですらトラウマになるくらい辛かったので先は長いな、と思ったのがだいたい10年前です。あれからおれは、ブルダック炒め麺を倒し、ペヤング獄激辛Finalを倒し、タイ旅行を倒し、スリランカ旅行を倒し、インド旅行を倒し、韓国旅行を倒し、ラオス旅行を倒し、ココイチ20倍を倒し、北極2倍を倒し、黙々とレベル上げに勤しんできました。
そういうわけで北極10倍とは多大なる因縁があります。ここまで来ると何と戦っているのかわかりませんし、あまりにも辛すぎるものって別においしくないので自分でも本当になにがしたいのかわかりませんが、戦いが不毛であるからこそ対決によって戦いを終わらせる必要があるのです。

白根(社長)、林(新宿店の店長)、勝負だ―――。
白根誠のハチマキに誠って書いてあるのが新選組みたいでかっこいいなと思います。中卒で一代で店を大きくしただけのことはあります。

そういうわけで食券を買って店長の林に渡します。辛さ指定は渡すときにします。
「辛さ10倍で!」
「10倍! 何倍まで食べたことありますか?」
「5倍までです(ほんとうは2倍)」
「5倍と10倍で辛さだいぶ違いますよ」
「うーん、たぶん大丈夫です」
「わかりました。まあスープはドロドロですよ」
みたいなやり取りをして注文します。こういうのは段階を踏むのが正解なんでしょうけど、おれは中本が無い県に住んでいてめったに行けないので悠長なことはやっていられません。いきなり10倍に挑戦します。

やってきました。ドロドロすぎる・・・。
バターをトッピングしています。なぜなら、バターは美味しいからです。

すする~!殺すぞ~!
メチャクチャ辛いですが、正直なところノーマル北極の10倍の苦痛があるかと言われると全然そんなことはなく、普通に食えます。かなり辛いのはガチですし、喉に汁が飛ぶと死亡事故が発生するため絶対に啜って食べないなどの激辛ラーメン特有のテクニックは必要ですけど、それさえ押さえれば全然いけますね。
最初にノーマル北極を食べたときは基本がなっていなかったので喉に汁が入って15分くらいむせていた記憶があります。あと目に汁が入って光を失うかと思った記憶もあります。おれたちがいま健康に生きていられるのは単なる幸運にすぎないのです。
激辛好きな人なら同意してくれるんじゃないかと思いますけど…、辛さ耐性には<臨界点>が存在して、そこを超えるといくらでも辛いものが食べられるようになるんですよね。もちろん、食べていて辛いは辛いんですけど、今すぐ逃れたくなるようなつい水を飲んでしまうタイプのどうしようもない辛さからは解放されるのです。つまり、辛さ耐性が<臨界点>を超えると、辛さに意識を向けずに箸を進めることが可能になるわけですね。仏教で言うところの悟りというのは現世の迷いや苦から解放される状態のことを指すわけですが、激辛の世界には激辛限定の悟りが存在します。
ハバネロみたいな異常唐辛子を使ったり、油を使って良い感じに辛味成分を抽出したりすると<臨界点>を突破した辛さ耐性をさらに突破する極悪激辛料理を作ることも可能なんですけど、中本は普通の唐辛子で普通にラーメンを作ってるだけの、いわば通常兵器なので正直言って何倍だろうがそんなに辛くありません。
この話は、大人が泣かないのによく似ています。大人は「知ってる人が死ぬ」「デカめの失恋をする」みたいな極めて例外的なことがない限りは基本的に泣かないわけですが、悲しみを感じないわけではありません。ただ大人は悲しみ耐性が<臨界点>を越えているので、耐えられずに泣いてしまうほどの悲しみを日常では感じなくなるのです。むしろ<臨界点>を越えた悲しみ耐性を持っている人のことを大人と呼ぶ可能性すらあります。

トウガラシのツブツブ感がダイレクトに感じられて、かなり独特の食感がします。食感だけで言えばタラコパスタに近いですね。汁がほぼ無いので、料理としては汁無しの混ぜそばに近い気がします。汁がないお陰で早く冷えてくれて食べやすい気すらします。
舌に感じる辛さはそこまででもないですが、経験したことのない量のトウガラシを食べているのも事実で、体がよくわからない謎の拒絶反応を示しています。別にそこまで辛くないのに何故か体が動かなくなる瞬間がときどき訪れます。
料理としてのバランスで言えば、たぶん(食べたことないですけど)3倍くらいが一番うまいんじゃないかと思います。それ以上になるとトウガラシ感が強すぎて、北極ラーメンとはまた別の食べ物になってしまいます。
でも中本の偉いところは北極10倍みたいな明らかにバランスを欠いた料理でもちゃんと美味しいところなんですよね。中本のトウガラシって辛いだけじゃなくてトウガラシ本来の甘味や風味が備わっていてガチでうまいです。トウガラシってカプサイシンが辛いから分かりにくいだけで、基本的にはフルーツなんだなと再認識できます。

スープ(?)以外完食しました。腹壊すからスープは絶対飲まんとこ、と思っていたんですが、ドロドロすぎて麺に付いてくるのでほとんど完飲してしまいました。
このペーストを箸でひとつまみだけうどんに入れたらちょうどいい辛さになる気がします。
それから1日経って、いまこれを書いています。腹が終わるかな?と思ったんですが、思ったよりは終わっていません。無事ちゃんと終わってはいるんですが、苦痛にのたうち回ってるかと言うと別にそんなこともないです。
「舌は鍛えられるけど腹は鍛えられない」みたいなことを言う人が居ますが、あれは嘘です。腹は鍛えられます。タイ人やインド人は毎日下痢をしていますか?していないでしょう。
誤算だったのは、腸じゃなくて胃が痛くなったことですね。辛すぎるものを食べたときの腹痛って腸の終わりのほうが刺激されて起こっているんだと思いますけど、今回は胃も痛かったです。トウガラシで胃が痛くなったことはなかったので、辛さから来る腹痛に慣れているおれでも流石に焦りました。

アイスがうめえ~。そういうわけで、ずっと倒さなきゃと思っていた北極10倍を倒すことができて充実した休日になりました。
北極10倍を倒すという巨大な目標を達成したことによって、今後はもう、この手の美味さを度外視した辛いだけの料理を食べる謎の行為から解放されることになります。世界には恒久平和が訪れたのです。
でも誤算だったのは、北極10倍が実は美味しさを度外視した料理なんかじゃなくて、けっこうちゃんと美味かったことですね。ラーメンとしての美味しさはたぶん3倍とかが一番バランスとれているんだとは思いますけど、10倍もこれはこれで別の魅力があります。蒙古タンメン中本って世間ではアタオカ異常激辛料理店として認識されていますけど、実は辛いだけじゃなくて、とても美味しくて味に真摯なお店なんですよね。
そういうわけでみなさんも挑戦してみてはいかがでしょうか。最後におれが好きな名言を貼って終わりとさせていただきます。せろりんでした。
『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ。
途中で止めるから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります。
渡邉美樹




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