【概念】お前がやってるそれ、減点方式?加点方式?

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せろりんです。

世の中のすべては、減点方式か、加点方式か、そのハイブリッドで良し悪しが決まります。あなたが取り組んでいるそのそれは、果たしてどれでしょうか?

例えば、パン作りは、油絵は、スプラトゥーンは、サッカーは、アメリカ大統領選挙は、銀行強盗は、果たして減点方式でしょうか。加点方式でしょうか。この見極めは、おれたちが生きていく上で実は意外と重要です。

なぜ幸福な家庭はどれも似ているのに、不幸な家庭は似ていないのか

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」なんて格言があります。

たしかに、言われてみればそんな気がします。想像してみましょう。幸福な家庭をイメージすることは実に容易です。親が子どもを愛していて、子どもはヤンチャすぎなくて、経済的に貧乏すぎなくて、家族が最低限は健康で…。そういう家庭をイメージするんじゃないでしょうか。

一方で、不幸な家庭の形は様々です。母親が不倫の末に出ていってしまったり、貧乏すぎて晩飯が抜きだったり、家がボロすぎて雨漏りで眠れなかったり、子どもが小学校に行けずに水を汲むため毎日遠くの井戸まで片道3時間かけて歩かないといけなかったり…。不幸の形は何パターンでも思いつきます。

この格言は、トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」の書き出しの文章として知られています。ロシアの上流階級アンナ・カレーニナさんが、夫のカレーニンと息子を捨てて不倫に及んだ結果、最終的に死ぬほど不幸な目に合ってしまう…、みたいな内容のイカついロシア文学です。

あのトルストイが言うだけあって、たしかに一理ある格言です。しかし、いったいどうして幸福な家庭はどれも似ているのに、不幸な家庭は似ていないのでしょうか?そこには、実に単純なメカニズムがあります。

理由は簡単で、おれたちがイメージしやすい「幸福な家庭」が減点方式だからです。

アンナ・カレーニナの法則とは何か

おれたちがイメージしやすい「幸福な家庭」とは、不幸になる要素が1つもない家庭のことです。親が不倫していない、3食食えるくらいにはお金がある、雨漏りしないくらいには家が立派である、井戸が遠すぎない・・・こうした無数にある致命的な減点箇所の全てを回避した家庭だけが「幸福な家庭」になれて、逆にどこか一箇所でも減点の地雷を踏んでいれば「不幸な家庭」になってしまうのです。そして減点箇所のどこに何か所減点があるかのバリエーションはほとんど無限なので、不幸な家庭はどれも似ないのです。

もちろん、井戸が遠いのに幸福に暮らしている家庭も実際にはたくさん存在するかもしれないので、トルストイの格言が本当に常に成立しているのかは割と疑わしいです。とはいえ、少なくとも直感的なイメージの上で成立している「幸福な家庭」においては、井戸が遠いと不幸な感じがしてしまうのも事実です。

そして、不幸っぽい家庭がイメージ上で持っている不幸さは、母親が美人だとか、父親が遊戯王カードをいくらでも買ってくれるとか、家にポルシェがあるとか、そういう加点要素ではほとんど埋めることができません。

このメカニズムは「幸福な家庭」以外でも成り立っていることが割と頻繁にあります。そういうわけで、この現象を説明するのにちょうどいい、「アンナ・カレーニナの法則」と呼ばれている概念を紹介します。

アンナ・カレーニナの法則
成功者の姿は似て、失敗者の姿はバラバラになる
成功者は無数にある地雷を全て避けており、失敗者は地雷の1つ以上を踏んでいるためである

この法則はべつにおれが考えたわけではなく、Wikipediaにアンナ・カレーニナの法則としてやっつけ仕事の記事が書かれているくらいには知られている法則です。

成功者は失敗していないから成功しているだけ

アンナ・カレーニナの法則に従っているもの、つまり減点方式で良し悪しが決まっているものの典型と言えば、旅客機でしょう。いま空を飛んでいる旅客機、つまり成功している旅客機は、外見的にはどれも同じような姿をしています。

・長い主翼が左右対称に2枚生えている
・1つの垂直尾翼と2つの水平尾翼がついている
・窓は付いているが、面積は最小限
・エンジンが2発か4発付いている
 …………

マニアからすれば細かな違いはあるのかもしれませんが、少なくとも外見を薄目で見ればどの機体も同じに見えます。

旅客機が似通っている理由は、何においても旅客機は絶対の安全性と高い経済性が求められるからです。コンコルドは他の旅客機の2~3倍の速度で飛べるという圧倒的な加点があったにもかかわらず、まさに経済性と安全性の問題から淘汰されてしまったわけです。

おれたちは「成功者は成功するだけの強みがあったから成功したのだ」と考えがちです。この思い込みを打ち砕いてくれる点こそアンナ・カレーニナの法則という概念の偉大なところです。実際には、ある種の成功者は、単に失敗していないから成功しているだけにすぎないのです。

↑成功している旅客機

逆アンナ・カレーニナの法則とは何か

↑B-2爆撃機。 https://www.cnn.co.jp/photo/35149226-7.htmlより引用

一方で、軍用機にはB-2からオスプレイまで、実に様々な奴がいます。成功している旅客機はどれも似ていますが、成功している軍用機はどれも似ていないのです。理由は、軍用機の良し悪しが加点方式で決まるからです。

たとえばB-2爆撃機は1機2000億円もする金食い虫でありながら、レーダーに写りにくいという圧倒的な加点要素があるため、アメリカ軍では重宝されています。

このように、アンナ・カレーニナの法則は、すべての物事に対して当てはまるわけではありません。むしろ世の中には、名付けて「逆アンナ・カレーニナの法則」が成り立つモノもたくさんあるわけです。

逆アンナ・カレーニナの法則
成功者の姿はバラバラになり、失敗者の姿は似る
成功者は個性豊かな強みを持っており、失敗者は全員等しくそれを持っていないからである

逆アンナ・カレーニナの法則が成立している最もわかりやすい例は絵画でしょう。ダ・ヴィンチ、ゴッホ、ピカソ、北斎…おれでも知っているような有名画家の絵はどれも似ていません。逆に、おれのような素人が描いた失敗した絵こそ似通っているように思えます。

アンナ・カレーニナ度とは何か

要するに、世の中には減点方式で成功が決まるモノと、加点方式で成功が決まるモノがあるわけです。もちろん、その中間もあります。ここで一度、減点方式と加点方式の2つの特徴を表にして整理しましょう。

減点方式加点方式
流れている法則アンナ・カレーニナの法則逆アンナ・カレーニナの法則
成功者の姿どれも似ているいずれもそれぞれ
成功する方法なにが地雷か把握する
ミスらない
あたりまえのことをやる
良いところを伸ばす
個性と多様性を重視
差別化する
良いところミスらなければ成功する
慣れていけばミスらなくなる
創造性が生きる
一発逆転可能
悪いところ退屈
差がつきにくい
競争過多になりがち
才能がないとやっていけない
例家庭、旅客機、軽自動車絵画、軍用機、スポーツカー
アンナ・カレーニナ度高い(100に近い)低い(0に近い)

そういうわけで、突然ですがおれが考案した独自の指標「アンナ・カレーニナ度」を導入します。次のように定義してみましょう。知らん小説のタイトルを使うのが嫌な人は「減点方式度」とでも呼ぶといいんじゃないでしょうか。

アンナ・カレーニナ度(減点方式度)の定義
そのジャンルに100点満点で点数を付けたとして、
減点を完全に回避しただけで獲得できる最高点数

たとえば、これ以上おいしいドラヤキはないと言い切れる100点のドラヤキがあったとします。美味しいドラヤキを作るには、まずアンコが甘すぎないとか、皮が生焼けではないとか、そういう当たり前のことをこなす必要があります。

しかし、当たり前のポイントを押さえただけのドラヤキでは決して100点は取れません。まあ良いとこ80点といったところでしょう。残りの20点を取るためには、皮が普通より明らかに香ばしいとか、アンコが割高で風味豊かな十勝産であるとか、そういう当たり前ではないポイントで勝負をする必要があります。

この場合、あたりまえの減点要素を避けただけで得られる最高点数は80点ですから、ドラヤキのアンナ・カレーニナ度(減点方式度)は80ということになります。

アンナ度は100に近いほど減点方式度合いが強い指標ですから、ドラヤキはわりと減点方式でほとんど決まってしまうことがわかります。その証拠として、おいしいドラヤキは、中に生クリームを入れるみたいな反則を使っていない限り、どれも似ている気がします。

もちろん、この決め方にはいくつもの欠点があります。たとえば、ある人は「アズキが十勝産であることはドラヤキが抑えるべき当然の要素で、中国産のアズキを使うことは減点要素だ」と考えるかもしれません。あるいは、食にこだわりのない人にとって、最低限のポイントを押さえただけのドラヤキは99点に達しているかもしれません。

とはいえ、人によって採点が異なることは大きな問題ではなりません。アンナ・カレーニナ度は個人個人が世界を正確に捉えるために自分で考えて心のなかに秘めておくもので、他人と比較してすり合わせる必要はないからです。

そういうわけで、厳密な手法でアンナ度を定義することは不可能なので、今回はおれの独断と偏見でアンナ度を決めていきます。

「旅客機の外見」は、なんだかんだマニアから見れば違いはありそうなので95くらいでしょうか。「家庭」はなんだかんだ加点で挽回できる部分も多いので70くらいでしょう。軽自動車は68、スポーツカーは45、軍用機は25で、絵画は15といったところでしょう。

なにが嬉しいかというと

世の中のあれこれを0から100のアンナ・カレーニナ度(減点方式度)で採点する行為は、ばかげているように見えて意外と大切です。趣味や職業にも0から100の幅がある上に、0と100とでは、成功するための対策がまったく正反対だからです。

減点方式の土俵で戦うのか、加点方式の土俵で戦うのか。あなたは果たしてどちらが得意で、どちらが好きでしょうか?

減点方式(アンナ・カレーニナの法則)の世界の特徴

減点方式の世界で上手いことやっていく秘訣は、ルールを把握することと、ミスらないことです。

つまり、主翼は2枚で、窓は極力小さく、エンジンは2個か4個…という、成功している旅客機に流れているルールを全て把握し、その全てをミスらずに実装できた技術者だけが成功した旅客機を作ることができるのです。

減点方式の世界はミスが許されないためストレスフルなように思えますが、決められたことをやれば成功できるという分かりやすさと、ある種の気楽さもあります。仮に減点方式で生き残る才能がなくても、その世界にずっといれば誰でも慣れてそれなりに減点回避が上手くなっていくという魅力もあります。

電気や水道のようなインフラ関係の仕事をやっている人は「上手く回っているときは決して称賛されないのに、トラブルが起きたときだけ叩かれる」なんてぼやきがちですけど、それはインフラのアンナ・カレーニナ度がほとんど100に近いからです。

加点方式(逆アンナ・カレーニナの法則)の世界の特徴

加点方式の世界でやっていく秘訣は、ルールに縛られないことと、他を圧倒するほどのアイデアを出すか、さもなくば他を圧倒するほどの努力をすることです。

加点方式の世界はクリエイティブで彩りに溢れた魅力的な環境に思えますが、才能がないと通用しない残酷な世界でもあります。

おれたちは加点方式に夢を見がちなので、そのせいで、音楽、お笑い、絵画、博士課程のように過当競争でレッドオーシャンになっているジャンルも多いです。その反面、当たればデカい場合もあります。

加点要素が掘り尽くされて環境が成熟してくると必然的に減点方式に移行してしまうという宿命的な欠点もあります。旅客機開発も元々は華やかな加点方式環境だったんじゃないかと思います。

中間の世界の特徴

減点方式でも加点方式でもあるようなハイブリッドの世界もあります。アンナ度で言えば50付近の領域です。

減点方式と加点方式のいいとこ取りと言えばいいとこ取りで、悪いとこ取りと言えば悪いとこ取りです。どちらかに振れすぎていないので多くの人にとって意外と居心地がいい池かもしれません。

アンナ度が50付近の存在と言えば、まず思いつくのは「文章」でしょうか。AIの書いた文章って今のところ面白みがなくて、なにを書かせても50点止まりですよね。理由は、読みやすく正確なだけで、加点要素が無いからです。

村上春樹はデビュー作の冒頭に「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」と、よくわからないことを書いています。村上春樹の真意はともかく、これは「文章」が完璧をワンチャン目指せるような減点方式でありながらも、しかし加点要素も多分に含まれているために完璧には決して到達できないことを示唆しているわけです。

では「絶望」はどうでしょうか?考えてみたんですが、難しくてよくわからなかったのでみなさんにお任せします。

アンナ・カレーニナ度一覧表

そういうわけで最後に世の中のいろいろをアンナ・カレーニナ度(減点方式度)で採点した結果のまとめ表を載せておきます。みなさんも暇だったら身の回りのモノのアンナ度を考えてみてはいかがでしょうか。

せろりんでした。

アンナ度
(減点方式度)
理由
ラーメン60・成功しているラーメンはどれも似ていない
・二郎系から意識高い系までいろいろある
・守らないと美味しくなくなる最低限の型は存在する。
・例えば、味の素を入れていないラーメンは他の部分でかなりの加点を稼がないといけない。
刺身95・新鮮か、あるいはちょうどいい熟成度合いであり、適当な厚みに切られていることだけが重要だ
ペン習字98・上手な字はどれも似ている
・理想的な字があって、それに近づけることが重要
PCの
キーボード
70・変な配列は使いにくい
・あえて変な配列を使う人もいるにはいる
スマートフォン89・いま販売されているスマートフォンはどれも似ている。全面にタッチパネルだけがあり、背面に複数個のカメラがあり、板状だ
・折りたたみ式のような例外もあるが、折りたたみ式すらも一定のスタイルに収斂していっている
紅茶62・安い紅茶はまずくないことが重要だ。
・高い紅茶は特別な香りや味がすることが求められる
・アンナ・カレーニナ度という概念を活かすには、安い紅茶と高い紅茶とで分けて考えないといけない気もする。
トイレ99・清潔で、ウォシュレットが付いていることだけが重要だ。
・不潔でウォシュレットが付いていないトイレは他のどのような加点要素でも決して挽回できない。
水道水97・清浄で雑味がないことだけが重要だ
・フッ素を添加する国もある
・水が美味しい地域に住んでいてもすぐ慣れちゃうんだよな
安全運転89・ミスを犯さないことだけが重要だ
・咄嗟の判断が光る超絶ドラテクで危険を回避できる場合もあるが、どちらかというと稀だ
峠を攻める
運転
61・最適なラインをミスなく攻めることが重要だ
・加点要素としか言えない絶妙なテクニックでしか成し得ない時短もある
コーラ92・知ってる味から逸脱していないことが重要だ
・クラフトコーラもうまいといえばうまいけど結局コカを飲みたい気もする
焼きそば81・結局普通の無難なソース焼きそばが一番うまいよな?
うどん60・成功してるうどんはどれも似ていないが、成功している讃岐うどんや成功している稲庭うどんは似ている気がする
西洋の
焼き物
70・基本的には対称的でブレのない美しい形状と地肌の真っ白さが求められる
・成功している西洋の焼き物は素人目には絵以外どれも同じに見える
日本の
焼き物
50・グニャグニャした歪みのような欠点を尊ぶ
・グニャグニャしていればいいわけではない。歪みは許されるが、ブレは許されない。
・評価の高い日本の焼き物は、実は美しい形状だと認識されるポイントをいくつも押さえてもいる
インドのカレー35・具もスパイスも多様だ
日本のカレー85・ルウの箱に書いてある通り作るのが一番のコツだと言われている
焼肉90・創造性によって美味しくできる余地はほとんど無い。
・良い肉を使うことが重要だ
オーディオ93・基本的には原音を忠実に再現することが重要だ
健康70・タバコを吸わない、酒を飲まない、どか食いしない、健康診断に行くといった減点を避けることが重要だ
・ジムに行くなど課金によって挽回できる部分もある
SNS85・イーロンマスクが余計なことをしないだけで85点は取れるのに
アイス52・外国でアイス買うと全部52点な気がする
アニメ30・全部無難に作っても30点にしかならん
電動ロクロ90・徹底的に基本を守ってミスさえしなければ良い形になる
・それが難しいのよ
芸術写真20・型にはまってなければはまってないほどいい
YouTuber53・クリエイティブな職業の代表だけどなんだかんだ基本をおさえた奴が勝ってる気もする
・成功してるYoutuberってわりと似てる気もするし
・用水路Youtuberばーじぼぶみたいな加点だけで攻める異端の鬼才も時々現れる

本当の本当に終わり

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この記事の概念は、以前書いたスローループという漫画の感想記事を発展させたものです。内容もこの記事と3割くらい一緒です。スローループは親の再婚で姉妹になった高校生2人が釣りを通して過去や未来と向き合う名作漫画です。スローループはあえて不完全な家庭を登場させまくると同時に、不完全な釣りを登場させて「似ていないけど幸福な家族」を意図的に描くことで主人公一家の幸福を間接的に表現しているんだ…みたいな考察を↑の記事でしています。スローループはすばらしい漫画なのでぜひ読んでみてください。

【概念】シリーズ過去作はこちら↓

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