旅行でラオスのルアンパバーンに滞在していたところ、泊まっていたホテルの隣の家など7軒が燃える大火事に遭遇してしまいました・・・。
個人的に本当にショッキングな出来事だった一方で、しかし報じているメディアはあまり無く、けっこうな数の観光客が影響を受けたはずですがSNSでも話題になっていないので、一部始終を書きます。
被害に遭われたルアンパバーンの人たちにお見舞い申し上げます。何度も水やジュースを買った街角のスーパー、朝ごはんをいただいたお店、何日か滞在した美しく思い出深い街並みが燃えて本当に悲しいです。昨日のネットニュースで2名が亡くなったことを知りました。謹んでお悔やみ申し上げます。
火災が発生

2026年の1月3日、深夜2時頃に偶然トイレで目を覚ましてぼんやりしていると、なにやら扉をノックする音が聞こえてくる。
何事かと思って、でも扉はあけずにしばらく様子を伺っているとホテルの人が合鍵を使って扉をあけてきて驚いた。ファイアがどうのと言っている。
たぶんどこかでボヤでも起きてるんだろうと察して、貴重品だけ持って外に出たところ、ホテルの隣の家が思ったより激しく燃えていて驚いた。

火は刻々と大きくなっていく。20分程すると近所の人がホースを持ってきて水道水を撒きはじめた。しかし水圧が足りず火にはほとんど届いていない。あまりにも非力すぎる・・・。
それにしても一向に消防車が来ない。ここは街の中ではわりと中心部に近い場所なのに。
結果的にそんなことはなかったけど、この街にはもしかすると消防車が無いのでは、このままこのあたりは全て燃え尽きてしまうのでは、おれが泊まっていたホテルも燃えてしまうのではないか、と思って暗い気持ちになってしまった。
とはいえ泊まっているホテルは無事だったので、バックパックを持ち出す余裕はあった。
消防車が到着

しばらくすると上から大量の水が降ってきた。雨か?と一瞬思ったが違いそうだ。このときは近所の人がどこか遠くから散水を試みて失敗して、おれにかかっているのだと思っていた。後になってわかったことだけど、消防車が遠くから散水を始めていたようだ。

様子を見に近くの大通りに出てみると、なんと、おれがずっと見ていたホテルの隣の建物は火事が起きている数件のうちの一つでしかなかったようだ。通り沿いの店が燃えまくっている。なんてことだ・・・。
消防車も放水を始めていた。おれが気づいていなかっただけで、もっと前から放水していたのかもしれない。しかし何故1台しか来ないのだろう。世界遺産の街なのに、これ一台だけしか消防車がいないのか?

ホースに穴が空いているらしく、大量の水が漏れ続けている。それを見て、現地の、恐らく消防士でもなんでもない人が体重で穴を塞いでいる。



ああ、滞在中に水とかエナドリとかコーラとかを買っていたスーパーが・・・。
まだ燃える前にお店の人が冷蔵庫や商品を避難させたみたいで、路上に酒やジュースが広げられている。なにせラオスは平均月給が8000円とかの国だ。ルアンパバーンはインバウンドの観光業が盛んな大きな街なのでもっと稼いでいるだろうと思うが、それでも冷蔵庫や外国のお酒は危険を顧みずに運び出す程には大切な物のようだ。

ホテルの隣の建物にも消防車のホースが入ったようだ。消せ消せ消せ消せ消せ消せ

激しく燃えている。悲惨すぎる。
空港の消防車が到着する



消防車がもう一台やってきた。車体にLUANGPRABANG INTERNATIONAL AIRPORTと書かれている。近所の空港から駆けつけた消防車のようだ。飛行機の火災を消すためのものだろうか?
もう一台とは明らかにパワーが違う。圧倒的な水圧で次々と火を消していく。水圧が強すぎて当たった部分の建物がバキバキと壊れる音がしている。車両の前にもサブの放水銃を備えている。
街の消防車1台だと間に合っていない印象だったが、空港の消防車の登場で明らかに流れが変わって鎮火に向かって行ったと思う。救世主だと思った。
しかし大体の時間はどこか別の場所に行っていたようだ。憶測だが、放水量が多すぎてすぐに水を使い果たしてしまい、そのたびに近所のメコン河にでも水を汲みに行っていたのかもしれない。

一時かなり火が弱まっていたホテルの隣の建物が激しく燃え始めた。
おれが泊まっていたホテルの別棟の屋根に消防士が登って消火することになった。自分にできることを考えた結果、ラオスの市民が屋根にホースを運び込むときに階段の足元をライトで照らす係をやっていた。ラオ語がわからない外国人にできることはそのくらいしか無い。それすら意味があったのかはわからないし、むしろ邪魔ですらあったかもしれない。

2時に起きた疲労と異常な興奮でまともな思考ができない。あらゆるものが燃えて相当な悪臭がするはずなのに臭いがまったく感じられない。
車上にいる消防士が「ナム!ナム!ナム!」と言って、地面にいる人がペットボトルのミネラルウォーターを適当に投げている。タイ語はラオ語ととても良く似ている言語だ。そしてナムはタイ語で水という意味で、おれが知っている数少ないタイ語だったからとても印象に残っている。

ホテルの隣の火災はだいぶ収まってきた。近所の住民らしき人が長い棒の先端にホースをくくりつけて水を送り込もうとしている。野次馬として写真を撮りながらも、壁を携帯とモバイルバッテリーの弱いライトで照らして微力ながら支援していたつもりだが、意味があったのかはよくわからないし、邪魔ですらあったかもしれない。


また水が漏れている。もう自分が踏みに行くしかないか、とも思ったが、すぐに別の人が足で踏んで塞いでいた。


近くではいつもと変わらずに托鉢をやっていた。
ルアンパバーンにはたくさんのお寺があって、朝になるとお坊さんが街を歩きながら人々に食料を貰って回る。これは伝統行事で、毎日行われている。観光客も托鉢用の屋台で食料を買えば椅子にしゃがんで仏僧に食料を寄付することができる。厳かな雰囲気だ。
鎮火へ向かう

まだ燃えているものの、概ね鎮火してきた。おれが泊まっていたホテルは、隣があれだけ激しく燃えていたのに奇跡的に一切燃えなかった。

部屋に戻ろうと思えば戻れそうだったが、なにかあって再燃して燃え移ったときに寝ていると迷惑をかけるので戻れない。寝れそうにもないし、鼻が麻痺してわからなくなっているだけで部屋はまだ悪臭がひどいだろう。朝食を食べに街に出る。
とんでもない大事件が起きたように感じていたが、街の大部分はいつもと変わらない


もう未知のものに触れたくないのでパンとカプチーノを選んだ。ラオスはフランスの植民地だった国だから、フランスを思わせるようなものがあちこちに売られている。クロワッサンもその一つだ。

元気になってきたのでお粥も食べる。お腹がすくのは生きてる証かもしれない。
部屋に戻る

火災現場に戻ってきた。日が昇ってきて痛ましさがあらわになっている。
おれが起きてから6時間以上経ったが、まだ燃え残っている部分があるらしく散水が続いている。地元の消防団的な人なのか、まったく関係ない市民なのかはわからないが、燃え残りを消火栓の水で消している。

ここは何日か前にパンとコーヒーをいただいたお店だった。




タイ人はあまりパンを食べないが、ラオスは割とパンを食べる。フランスの植民地だった影響だ。ここは地元の名物であるパンやお粥やカオソイ(ラオスのヌードル)を出すお店だった。

ここは滞在中に何度も飲み物を買ったスーパーだった。悲しすぎる。

火災前の写真



滞在していたホテルの別棟。隣の火を消すために消防士が突入してびちゃびちゃになっているが、奇跡的に燃えてはいない。
8時頃に部屋に戻ると受付の兄ちゃんがソーリーと言ってきて、素で「いやいやいやいや!」と言ってしまった。ソーリーなわけあるか。
消火活動中に足を怪我してしまったらしく、太ももに負った壮絶な擦り傷を見せてくれた。養生してほしい。親切で感じの良い兄ちゃんだった。元気でやってほしい。

火事とは無関係に、安くて清潔で雰囲気もあって立地も良くて良い宿だったので、ルアンパバーンに行くことがあったら是非使ってほしい。Ratthana guesthouseというホテルだ。2人で3泊して1万円だった。ホテルの入口で靴を脱ぐスタイルで、そこも日本っぽくて良かった。

1時間だけ仮眠をとって12時にチェックアウトした。今日は19時のフライトで近所の空港から帰国する予定だ。
なんというかショックすぎて、持っていたいくらかのラオスキープを、少ないがホテルの修理に使ってくれ、と英語で書き残して部屋に置いてきた。ラオスはタイバーツも使えるから、タイで余らせた若干のタイバーツも置いて、バーツは近所の燃えてしまった家のために使ってほしいと書き置きしておいた。複雑な内容を口で伝える自信が無かったから全て書き置きで済ませた。
宿の人にとっては迷惑な無茶振りだったかもしれないけど、それくらいしか思いつかなかった。でもいま思うと、観光業で接客をしている人を除けば標準的なラオス人は英語があまりわからないようだから、おれが部屋にお金を置いたせいで客室清掃の人がチップだと勘違いして持っていってしまったかもしれない。
チェックアウトのために鍵を渡すと、受付の兄ちゃんが疲れ切った笑顔で「Thank you very much…」と言っていて、なにか気の利いたことでも言えればよかったんだけど、何と言えばいいのかわからなくてサンキューベリーマッチと返すしか無かった。お大事にしてくださいとか、いつかまた来ますとか、言いたいことはいろいろあった。

通りに出ると、ラオス軍の人たちがチャーハンの弁当を食べて休憩していた。いつのまにか出動して片付けに従事していたようだ。

悲しすぎる。フライトまで時間があったのでこの後も気を取り直して市内をあちこち観光してみたけど、ショックすぎて何も手につかなかった。
今回の火災があった場所のストリートビューのリンクを貼っておく。もしこれを見ている人がルアンパバーンに行くことがあったら、よかったらコメントで様子を教えてほしい。
その後

夜には現地メディアの英語版でニュースになっていた。
・1時30分頃にルアンパバーン県ワット・タート村で火災が発生した。
・5棟が全焼し、2棟が一部損壊した。
・非公式情報によると死者が出た可能性があるが、当局は現時点で死者を確認していない。
かなり悲惨な火事で本当にショックだったけど、世界を見渡せばそれなりによくあることなのかもしれない。

火災から一週間が経った。あれからおれは毎日のように続報を調べている。すると、また新たに驚くべきニュースが見つかった。ルアンパバーンで再び火事が起きたらしいのだが、このニュースでは、関連して今回おれが遭遇した1月3日の火災についても続報を載せている。書いてあることは言葉にならないような壮絶なものだった。
日本語に訳したものを要約する。
・1月3日の火災は、後に強盗・殺人・放火を含む重大な刑事事件と関連していることが明らかになった。
・1月3日の火災では、8軒の住宅が被害を受け、2名が死亡した。
・警察は翌日、中国との国境の街で中国国籍の男を逮捕した。
・ルアンパバーン警察によると、容疑者の男は、強盗と殺人を犯し、証拠隠滅のために住宅に放火したことを自供したという。
なんということだろう・・・。死者が出てしまったのも悲しいし、悪意ある犯罪が原因だったというのも悲しい。
実はこのニュースを発見する数日前に、Facebookのラオ語の投稿で、現地ニュースメディアのアカウントが「火事は中国人による放火で、逃亡していた中国人は中国との国境に入る直前で逮捕された。当局から数日中に発表があるだろう」などと書いてあるのを、おれは見つけていた。
容疑者が手錠をかけられてしゃがみ込んでいる写真が載っていたので、いくらなんでもこれはタチのわるいデマだろうと、そのときは思った。国境ギリギリで逮捕されたという話も、いま思えばイミグレで拘束されたというだけの話なのだろうけど、そんなドラマの追跡劇のような展開があるわけがないと思った。日本のTwitterにも居る「◯◯速報」のような名前のニュースメディア風ヘイトスピーチアカウントが書いたラオス人の排外主義者によるデマに決まっている、こういうのはどの国でもあるものなんだな、と決めつけて勝手に暗い気持ちになっていた。しかしどうも、その情報は事実だったらしい。

おれにはラオ語での情報収集に限界があるので確実なことはわからないのだが、続報を出したLaotianTimesというメディアは、ラオス国内のニュースの英語版としてそれなりにしっかりとしたメディアのようだ。捜査情報のソースとして記事に載っている「ຄວາມສະຫງົບ Lao Security News」というアカウントも、(生成AIが言うには)ラオス公安省のメディアらしい。ラオスは中国との関係が深く、しかも容疑者が中国籍なこともあって、中国語で検索しても同様の情報は出てくる。デマの可能性は低いだろう。
ラオスのような途上国では、警察が捜査状況を積極的に公開することは珍しくなく、時には取り調べの動画すら公開することがあるらしい。警察の仕事ぶりをアピールするためだったり、見せしめのためだったりする。Lao Security Newsには、取り調べによって得られた詳細な犯行の状況(AIにラオ語を訳してもらったが、ここに書くにはあまりにも重苦しい内容だった)と、容疑者が手錠をかけられてしゃがみ込んでいる写真が投稿されている。文化が違いすぎる・・・。

ルアンパバーンはほんとうに素晴らしい街だ。ここは日本で例えるなら京都や奈良のような街で、街全体が世界遺産になっている美しく歴史ある街だ。そしてラオス人はとても親切で、穏やかで良い人ばかりだ。調べてみると、穏やかで協調性が高いというのがラオスの国民性らしい。◯◯人はこうだ、という考え方は何であれ危険だと思うけれど、事実としておれが出会ったラオス人はみんな(お茶目なところもあるが)笑顔が素敵な良い奴ばかりだった。
ホースの穴を踏んでいる人は、放水を中断したりホースを動かしたりするタイミングで居なくなる。だけど、放水が再開して水が漏れていることがわかると、近くの別のラオス人がすぐにホースを踏みに行っていて、絶えることがなかった。踏みに行けば全身が濡れることがわかりきっている中で、同じことができる街は世界にどれくらいあるだろうか?
アジアの途上国に行くと、ぼったくりや、詐欺や、街角での喧嘩がつきものだけど、ルアンパバーンにはそういうのはぜんぜん無くて、とても平和だった(強盗と殺人と放火は起きたけれど)。おれもスリランカとか、インドとか、タイとか、アジアの国にあちこち行ってきたけど、こんなに趣深く穏やかな街はないと思う。おれが書いた一連の旅行記事を読めばわかってくれると思うが、カオス寄りの旅もラグジュアリー寄りの旅もどちらも楽しめるすばらしい街だ。直行便は無いが、1回だけ乗り継げば簡単に行けるし、長期連休を外せば往復7万円ほどしかかからない。興味を持ったら是非行ってみてほしい。これは決して食べて応援みたいな話ではなく、単純にルアンパバーンはすごく良い街で、個人的におすすめだから行ってみてほしいという話だ。おれもいつかまた行こうと思う。
今回の火事でおれは本当に落ち込んでしまって、帰ってからも何日かずっとボーっとしていた。ちょっとした数日間の旅行で訪れただけの、自分の人生とほとんど無関係の街の火災がそこまでショックだったのは、やっぱりルアンパバーンの街がかなり好きになっていていたからだと思う。
続く。

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